ラスベガスに見る「カジノ」成功の条件

2つの「C」がIRビジネスには重要

ラスベガス「ベラージオ」の噴水

カジノを含む統合型リゾート(IR)の本場は、誰もが知る通り、米ネバダ州ラスベガスだ。かつてのマフィアとのグレーな関係を断ち切ったラスベガスで、1990年頃から民間事業者たちが国内外の観光客を増やそうと知恵を絞り、巨額の投資を注ぎ込んで、現在のラスベガスの巨大リゾート地域を作り上げてきた。

現地では必ずしも「IR(Integrated Resort)」という呼称が定着しているわけではなく、単に「Resort」とか「Destination Resort」とも呼ばれている。後者は、旅の目的先となるということなので、ホテルばかりでなく、レジャー関連やビジネス関連の施設がそろっている意味合いを含ませると、IRと同じ内容になる。

これらの用語はすべて、カジノなしでも使われ、ラスベガスにも施設内にカジノなしのリゾートホテルが少なくない。カジノをしない観光客はそんなホテルに宿泊して、別のリゾート施設にある各種アトラクションの場所へ遊びに行けばよいわけで、ラスベガスが年間4000万人の観光客を引き寄せるのは、カジノを含め多種多様な魅力ある施設が集積しているためだと言うことができる。

付け加えておくと、同じカジノ付きIRとは言っても、ラスベガスの各リゾート施設は、シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」と比べると、はるかにカジノが目立つ。ラスベガスのカジノ付きリゾートホテルでは、多くの場合、地上階の正面入り口を入ったとたんカジノフロアを目にすることになるのに加え、客室エレベーターがカジノフロアのそばに配置されている。

大阪への進出計画が先行

ラスベガスの中心街「ストリップ」で最も大きな存在感を示しているのが、MGMリゾート・インターナショナルのリゾート群だ。ストリップの通りの両側に同社傘下の「ベラージオ」「アリア」「MGMグランド」「マンダレイ・ベイ」といった異なるテーマ性を持たせた、カジノ込みの大型施設が立ち並び、その一部の施設間では自社で建設した無料トラムを運行している。

「アリア」地上階のカジノフロア

もともとエンターテインメントに強いMGMが現在重視しているのはMICE(ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビション)施設の拡張だ。

今でも、MGM系のMICE施設を合わせると30万平方mにもなり、ラスベガスのMICE全体(110万平方m)の4分の1を占める。単一施設では、空港に近い立地のマンダレイ・ベイが16万平方mのMICEを備えているが、そこをさらに10万平方m拡張中だ。ちなみに幕張メッセの国際展示場は計8万平方m程度なので、拡張面積だけでもこれを上回る。

そのMGMは、日本でのIR進出に最も熱意を見せている企業の1つである。同社のジェームズ・ミューレン会長兼CEOは、6月上旬にベラージオ内の役員室で、IR法整備が進められつつある日本への進出の意欲を語った。

「MGMでは、大阪・関西圏と東京・大東京圏を検討対象としています。大阪なら京都や神戸との接続性の良さを込みで検討しているという意味です。既に、東京と大阪をそれぞれ対象にした別々の設計チームが作業をしています。

MGMのリゾートは、たとえばマカオにある形態をそのまま日本に持ち込むようなクッキーの型抜き方式ではなく、あらゆるレベルで日本との協働作業で作り上げます。IR建設・運営の最高のコンソーシアムを作るために、多くの日本企業と話をしています」とミューレン会長は自社の姿勢を説明する。

大型ホテル・リゾート業界には世界的に統一したコンセプトの施設を建設・運営する大手企業もいくつかあるが、MGMはテーマ性の異なる施設を建設・運営するのを特徴としており、日本進出に当たってはさらに日本的なものを取り入れたコンセプトの施設を作る考えだ。

大阪のデザイン案では、府知事がIR候補地として言及している夢洲の場合、各2,500室の高層ホテル2つ、各10万平方mのMICE2つなどを、大阪の運河や大阪城のお濠をイメージした周回水路で結ぶような形になっている。

ミューレン会長は、「われわれは関西圏と大東京圏の両方に関心を持っています。どちらに進出するつもりかという質問に答えるのは時期尚早ですが、現時点では、大阪のほうが自治体の意向がずっとはっきりしています」とも言い、大阪圏への進出計画の作業を先行させていることを示唆した。また、別の同社首脳は、大阪であれば設計後30カ月で建設を完了できると語り、進出計画がかなり詳細な部分まで既にあることを示した。

競争により施設や顧客が増える経験

IRビジネスが成功する条件は、政府や自治体がどのような立地を指定するかによるし、規制・税制のあり方にもよるが、ラスベガスから学べることは民間事業者の行動による面も大きいということだ。

そのうちの1つは、民間事業者間の競争(コンペティション)だ。ラスベガスのストリップには、MGMのほか、ラスベガス・サンズ、シーザーズ・エンターテインメント、ウィン・リゾートなどが運営する巨大リゾート施設がずらりと並んでいる。

同地を訪れた観光客は、時間と体力と予算が許せば、宿泊しているところとは別のリゾート施設を歩いて見て回ることができる。エッフェル塔やシーザー像、火山の爆発や踊る噴水のショーなどは無料で楽しめほか、有料のアトラクションとしては、シルクドソレイユや有名アーティスト、有名マジシャンなどのステージがそれぞれのリゾートの中で毎日興行されている。

密集したエリアに多種多様なアトラクションがあるのは、運営会社各社が知恵を絞り、独自に投資して整備してきた結果であり、競争の効果で常にアトラクションが充実し続けている。

ビジネス目的でも娯楽イベントでも使われるMICEの広さにも競争が貢献している。

MGMのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、アラン・フェルドマン氏は、「米国とラスベガスの経験では、MICE建設は民間事業のほうが政府による事業よりも効果的です。いろんな国に政府所有の大型MICE施設がありますが、民間セクターによるMICEのほうがさらに大きくなる傾向があります。これは、競争とイノベーションが働くためで、結果的に政府系と民間のMICEでは、人の流れや活気が違います」と指摘した。

フェルドマン氏は、競争効果をIRビジネス全体についても歓迎する。「われわれは、IRが成功するためには、1つの都市に複数のライセンス事業者が存在するのが望ましいと考えています。東京や大阪にそれぞれ1社というのは(市場独占のため)ハッピーではありますが、2社いれば、2種類のアイデアがあり、2種類のマーケティング網を展開するため、引きつけることのできる顧客の範囲が拡大するからです」と、同氏はコメントする。

複数のライセンス事業者がいれば、カジノ以外の施設を考え、投資する能力は増し、興行できるイベントの数も増える。

国会に提出されているIR推進法案では、1都市のライセンスの数までは言及されていないが、日本のIRプロジェクトでも参考にしたい意見だ。

地域の企業群と客を奪い合うのではなく協働する

IR成功の条件のもう1つは協働(コラボレーション)だ。協働という言葉はMGM首脳が競合他社との違いとして使ったのだが、必ずしも同社だけのことではなく、IRプロジェクト成功の条件として良いように思える。

ミューレン会長は、「IRの定義として、大半の事業者は、1つのリゾート施設の中にすべてが盛り込まれている設計がベストだと言います。しかし私は違う意見を持っています。IRのIは、地域社会との統合(インテグレート)であり、ほかの企業群との統合だと思うのです」と持論を述べた。

大阪・関西圏であれば、既に観光・飲食・娯楽産業が発達し、多くの企業群が存在している。交通網が整備されれば、夢洲にできるIRはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)とも近い。地域の企業群と客を奪い合うのではなく、IRの波及効果でそれらの企業群も繁盛するようでなければ、IRプロジェクトの意義は小さくなる。

また、地域社会との協働の精神は、IR建設により地域住民が使える公園・緑地・交通網の整備への参加のほか、カジノ合法化によって懸念されているギャンブル依存症などギャンブルのもたらす問題への対策にも発揮されねばならない。

ベラージオの監視室

米国では、「プロブレム・ギャンブリング」(問題ギャンブル)、「リスポンシブル・ギャンブリング」(責任あるギャンブル)といった言葉が使われ、全米レベル、州レベルでのギャンブルの問題への対策委員会がある。フェルドマン氏がそうした委員会の役員をいくつか務めているほか、MGMは会社としても対策委員会の活動を支援している。

日本でIR法制化とその具体化プロジェクトが進展する際には、プロブレム・ギャンブリング対策について、政府や地方自治体が取り組んでいかなければならない。そのとき、経験の面でも資金面でもIR事業者を巻き込むことになるだろうし、こうしたことに積極的に協働の精神を発揮してくれるIR事業者が選定されることが望ましい。

IRビジネスの成功のための条件はほかにもあるだろうが、今回は、ラスベガスでの取材から「競争」と「協働」の2つのCを紹介した。

(by 和田氏 日経ビジネス)




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