カジノに賭けるロシア 極東開発に力

ラスベガス、マカオ、モンテカルロなら分かる。それが、ウラジオストク?――1カ月足らずのうちに、シベリア遠端の新しい巨大ギャンブル複合施設に最初のカジノがオープンする。

ウスリー湾を見下ろす丘の上、北朝鮮の国境からわずか200キロほどの場所に「ティグレ・デ・クリスタル」が立っている。759台のスロットマシンと数十台のルーレットテーブルを備え、ホテルが併設された複合施設だ。

同施設は、ロシア極東地域を開発しようとする最近の必死の努力の一環だ。モンゴルの北側の国境地帯からベーリング海峡まで果てしなく広がるロシア極東地域は、資源が豊富だが、人口が乏しく、ロシアの他地域と比べてもインフラがお粗末だ。

新しいカジノは、この状況を変えてくれることにロシア政府が期待を寄せる数十のプロジェクトの一つだ。他の特区と同様、政府はここでも投資家に、簡素化された承認プロセスと査証(ビザ)の免除、税制優遇措置を提供している。

ウラジオストク カジノ

ウラジオストク カジノ

■ リスクの高い構想

世界最大のギャンブル界の投資家の1人は、すでに賭けを行った。マカオのカジノ王、ローレンス・ホー氏がティグレ・デ・クリスタルの主要投資家なのだ。

ホー氏の投資会社サミットアセント・ホールディングス(凱升控股)の財務・戦略担当取締役のエリック・ランドヒール氏は言う。「我々はロシア極東の沿海地方で最大の法人投資家だ。第1段階に5億ドル投資しており、当社の投資額はいずれ9億ドルに達するだろう」

ヨーロッパ人にとっては、この場所は地の果てのように思えるかもしれないが、賭博業界からすると、カネになるかもしれない。

「ここから飛行機で3時間の圏内に3億人以上の人が住んでいる」。ティグレ・デ・クリスタルの支配人で、陽気なスコットランド人のクレイグ・バランタイン氏はこう言う。「人数ではロシア人が我々のビジネスの8割を占めるとみているが、金額ベースでは中国人が8割を占めるだろう」

中国の腐敗の取り締まりがマカオのビジネスにメスを入れた今、これはリスクの高い構想かもしれない。マカオでは2015年上半期に、中国人プレーヤーから得た賭博収入が前年同期比で3分の1以上減少した。中国経済が減速しているため、状況はさらに悪化する可能性がある。

だが、ウラジオストクは中国だけでなく、日本や韓国からも近い。バランタイン氏は、韓国の旅行代理店からすでに多くの予約を受け付けたと話している。さらに、中国の国境検問所が2カ所近くにあることは、多くの中国人訪問客がツアーバスで新たなリゾート地に行くことができ、米国人にとってのリノやアトランティックシティーに匹敵する安い選択肢になることを意味している。

■ いら立つ投資家

だが、新たなカジノの成功は、ロシア政府が極東地域に投資家を歓迎するという華々しい約束を守るかどうかにかかっている。「確かに、ウラジオストクは香港の例にならうことができるだろう。だが、我々としてはまだ、ロシアは西を向いており、ロシア人は自分たちのことをむしろヨーロッパ人だと思っていると感じている」。中国企業ヘジュンコンサルティング(和君諮詢)の創業者の王明夫会長はこう話す。

今月、アジア企業に開発計画を売り込むためにウラジオストクで開かれた政府主催の会議では、短いスピーチを行い、米国のアクション俳優、スティーブン・セガールと握手するためにウラジーミル・プーチン大統領が立ち寄ったが、会議に残って投資家との議論に参加することはなかった。プーチン氏の出身地で、最もヨーロッパらしいロシア都市の一つ、サンクトペテルブルクで開催される年次経済会議では、投資家との対話が大統領の習慣になっている。

ウラジオストクからほど近い中国黒竜江省の省長、陸昊氏は会議で、税関手続きにおけるロシアの過剰なお役所仕事とインフラプロジェクトの完了の遅延が中国人投資家をいら立たせていると不満を強く訴えた。

同じような問題がティグレ・デ・クリスタルを悩ませている。このカジノは、許可が出ず、建設が遅れたために、オープニングの予定を2度、変更せざるを得なかった。また、今年初めにできると約束されていた空港からの新道路は、10月8日のオープニングに間に合わなくなった。(By Kathrin Hille in Moscow/JBpress/Nikkei)




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